はじめに — この記事の位置づけ
電子帳簿保存法(電帳法)は改正が続いている領域です。この記事は 2026 年 8 月時点で公開されている情報をもとに全体像を整理したものであり、個別の判断にあたっては必ず国税庁の最新の公表資料と、顧問税理士の見解を確認してください。
あわせて重要な前提を先に書きます。DropOCR は帳票を読み取って自社フォーマットへ変換するツールであり、電帳法の保存要件を満たす保存システムとして認証を受けたものではありません。要件を満たす保存は、要件に対応した保存システムまたは自社の運用で担う必要があります。この線引きを曖昧にしたまま導入すると、後から保存のやり直しが発生します。
3 つの区分を混同しない
電帳法が扱う電子保存は、大きく 3 つに分かれます。この区分を混ぜると話が噛み合いません。
- 電子帳簿等保存: 会計ソフトで作成した帳簿・書類を電子のまま保存する(任意)
- スキャナ保存: 紙で受け取った・作成した書類をスキャンして保存する(任意)
- 電子取引データ保存: 電子で受け取った取引情報を電子のまま保存する(義務)
このうち義務なのは 3 つ目です。メールに PDF で届いた請求書、Web からダウンロードした領収書は電子取引にあたり、紙に出力して保存するだけでは要件を満たしません。まずここが自社で対応済みかを確認してください。
1 と 2 は任意であり、紙のまま保存し続けるという選択も引き続き可能です。「電帳法対応のためにスキャナ保存を始めなければならない」というのは、正確ではありません。
スキャナ保存の主な要件
紙の帳票をスキャンして原本を廃棄したい場合、満たすべき要件はおおむね次のとおりです(重要書類の場合)。
入力期間の制限
書類の受領後、おおむね 7 営業日以内、または業務処理サイクル(最長 1 か月)の後おおむね 7 営業日以内にスキャンする必要があります。「月末にまとめて 3 か月分をスキャンする」運用は要件を満たしません。
解像度・階調の下限
解像度は 200dpi 以上、カラー画像(赤・緑・青それぞれ 256 階調以上)での読み取りが求められます。この要件は、実は AI-OCR の読み取り精度を上げる条件とほぼ一致しています。法対応のために設定を直したら読み取り精度も上がったという順序で進む現場は多いです。
タイムスタンプ、または訂正削除の履歴
タイムスタンプを付与するか、訂正・削除の履歴が残る(または訂正削除ができない)システムで保存することが求められます。ここは保存システム側の機能です。読み取りツールが担う部分ではありません。
検索機能の確保
取引年月日・取引金額・取引先の 3 項目で検索できることが求められます。税務調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられる場合は、範囲指定や項目の組み合わせによる検索までは不要とされています。
帳簿との相互関連性
保存した書類と、対応する帳簿の記録とを相互に辿れる状態にしておく必要があります。伝票番号などで双方向に確認できる形が求められます。
なお、2022 年 1 月施行の改正で、適正事務処理要件(相互けん制・定期検査・再発防止策)は廃止されています。古い解説記事にはこの要件が残っているものがあり、不要な社内規程を作ってしまう原因になります。情報の日付を確認してください。
AI-OCR が担う範囲と、担わない範囲
ここが実務でいちばん誤解されるところです。
AI-OCR が担えること
- スキャンした画像から、取引年月日・取引金額・取引先を項目として取り出す
- 取り出した値を、検索用の索引として保存システムへ渡せる形にする
- 読み取り結果の確からしさを示し、人が確認・訂正する工程を作る
検索機能の要件で必要になる 3 項目は、まさに AI-OCR が取り出せる項目です。この 3 項目を手で入力していた作業が、電帳法対応の負担の実体だったという現場は少なくありません。ここは自動化の効果が明確に出る部分です。
AI-OCR が担わないこと
- タイムスタンプの付与
- 訂正削除の履歴管理・改ざん防止
- 保存期間(原則 7 年、欠損金がある場合は 10 年)にわたる保管
- 入力期間の制限を守らせる運用の統制
これらは保存システムと社内運用の領域です。読み取りツールを入れただけで電帳法に対応した状態にはなりません。
インボイス制度との関係
適格請求書(インボイス)では、登録番号・適用税率・税率ごとに区分した消費税額等の記載が必要です。受け取る側は、これらが記載されているかを確認する必要があります。
AI-OCR は、これらの項目を帳票から取り出す作業を短くできます。ただし、登録番号が実在し有効かどうかの確認は、国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトでの照合という別の工程です。読み取った番号が正しく転記されていることと、その番号が有効であることは別の話です。
電子取引データ保存で、まず確認すること
義務である電子取引データ保存について、自社の状況を確認する最小の手順です。
- 電子で受け取っている取引書類を洗い出す: メール添付の請求書・領収書、Web サイトからダウンロードする明細、EDI で受け取るデータ、クレジットカードの利用明細、交通系 IC の履歴など
- それぞれをいまどこに保存しているか確認する: 「メールボックスに残っているだけ」は保存として不十分な場合があります
- 検索できる状態か確認する: 取引年月日・取引金額・取引先で探せるか
- 改ざん防止の措置があるか確認する: 訂正削除の履歴が残るシステム、またはそれに代わる事務処理規程の整備
4 番目について、事務処理規程を定めて運用する方法も認められています。システムを導入せずに規程で対応するという選択肢があることは、あまり知られていません。国税庁は規程のサンプルを公開しているため、まずはそれを確認するのが早道です。
よくある誤解
「紙で受け取った請求書も電子保存しなければならない」
義務なのは電子で受け取ったものです。紙で受け取ったものは、紙のまま保存し続けて構いません。スキャナ保存は任意の制度です。
「スキャンしたら原本の紙をすぐ捨てられる」
スキャナ保存の要件をすべて満たしている場合に限られます。要件を満たさないまま原本を廃棄すると、書類が存在しない状態になります。要件を満たす体制ができるまでは、原本を残しておくのが安全です。
「AI-OCR を入れれば電帳法に対応できる」
読み取りツールは、検索要件で必要な項目を取り出す工程を短くします。しかし保存そのもの、タイムスタンプ、訂正削除の履歴は担いません。対応の全体像のうち、担うのは一部です。
「適正事務処理要件(相互けん制・定期検査)が必要」
2022 年 1 月施行の改正で廃止されています。この要件を前提にした社内規程を今から作る必要はありません。
「電帳法に対応すると業務が増える」
増える部分と減る部分があります。検索できる状態を作る作業は増えますが、紙を綴じて保管する作業と、過去の書類を探す作業は減ります。とくに探す作業は、電子化の効果がもっとも実感されるところです。
導入時に決めておくこと
- 自社に必要なのはどの区分か。電子取引データ保存(義務)は対応済みか。スキャナ保存を始めるのか、紙のまま保存し続けるのか
- 保存システムは何を使うか。要件を満たす保存はどこで担保するか
- AI-OCR から保存システムへ、どの項目をどう渡すか。検索要件の 3 項目を索引としてどう連携するか
- 入力期間を守れる運用フローになっているか。受領から 7 営業日という制約は、実は受け取りの自動化と相性が良い
4 番目は見落とされがちです。メール転送で届いた時点で自動的に取り込まれる仕組みは、入力期間の制限を運用努力ではなく仕組みで守ることにつながります。
まとめ
電帳法対応は、読み取りツールを 1 つ入れて完結する話ではありません。義務である電子取引データ保存、任意であるスキャナ保存、そして保存システムが担う要件と読み取りツールが担う範囲を、最初に切り分けてください。
そのうえで、AI-OCR が明確に効くのは検索要件の 3 項目の入力工数と、解像度要件を満たしたスキャンがそのまま読み取り精度の向上につながるという 2 点です。DropOCR の取込・抽出では、これらの項目を帳票から自動で取り出します。
繰り返しになりますが、制度の解釈と個別の適用については、国税庁の公表資料と顧問税理士の確認を前提としてください。
